音乃木坂図書室 司書
いつもの事であるが打ち合わせの時等、よく話題が逸れてしまって、話が全然まとまらない事が多々ある9人。
今日も希によってようやく話が本題へと戻された。
それはアキバドーム大会でのライブで、新曲2曲に加え、あと1曲何をやるかというものであった。
部長の花陽が先陣を切って口を開く。
「私はスノハレがいいな。私の大好きな曲だし、何より東京予選でA-RISEに勝った、大切な思い出の曲だから」
「うん、私もスノハレは大好き。でもスノハレは冬の曲ってイメージだよね。真夏の今大会にはどうだろう?」
と行ったのはことりだ。 そこへ海未も言う。
「私はラブライブを優勝した時の曲、KiRa-KiRa Sensation!がいいかなと思います。ラブライブでやったこの曲であれば、多くの人が知っていると思いますので」
「私はユメノトビラがいいな。あの曲があったからこそ、μ'sとしての結束は強まったし、私たちを語る上でははずせないよね。」
穂乃果が言った。 それに続いて凜が言う。
「だったら凛はSTARTDASHがいいにゃー。μ'sのはじまりの曲だし、9人バージョンまたやりたいにゃ」
メンバーそれぞれが意見を出し合うが、なかなか決まりそうな気配はない。 どの曲にしても、皆何かしらの想いがあるのだ。 そこに絵里が口を開いた。
「私もどの曲も全部好き...1曲にするとなると、決めかねちゃうよね。でもライブでやるならAngelicAngelがいいと思う」
その言葉にすかさずにこが突っ掛かる。
「ちょっと絵里、エンエンは自分がセンターで目立つからって理由じゃないでしょうね?」
鋭いにこのツッコミに、内心ではそれも少しあるけどと思う絵里。
μ'sは基本的には穂乃果がセンターを勤めているが、曲によっては他のメンバーがセンターを務めることもある。
例えば絵里がセンターのAngelicAngelや、にこがセンターの夏色笑顔で1.2.Jumpであったり、ことりがセンターのWonder Zoneといった具合にである。
軽く否定を入れつつ絵里は続ける。
「そんな訳ないでしょ。この曲ならNYでのPRライブを通して知名度もあるし、誰が聞いてもμ'sでわかると思うの」
「うん、私も賛成。そうしよう!」 穂乃果が声を上げる。
絵里の意見に他のメンバーも頷き、反対という者はいなかった。
こうしてアキバドーム大会でやる曲は新曲の僕たちはひとつの光、MOMENT RINGに加え、AngelicAngelの3曲に決定した。
「よーし、ライブでやる曲も決まったし、μ's全力で行くぞー!」 花
陽の言葉に応え、一同が大きな声を上げた。
という事で、μ'sおよびBiBiの合宿は順調に進んでいった。
ーー合宿最終日ーー
合宿中、誰よりも早く起きて皆を起こし、朝練をしていた穂乃果。
この日は更に早く目覚めていた。
夜明け前の太陽の光が水平線を照らし、窓の外の空が穂乃果に白む頃である。
別荘2階のベランダは美しい景色が見渡せる。
そんな広いベランダの手すりに体を預けるようにして、徐々に明るくなる空と海を見つめる穂乃果。
そんな穂乃果に気づいたことりは皆を起こさないよう、静かに追いかけて、ベランダで物思いに耽るかのような穂乃果に声を掛けた。
「おはよう穂乃果ちゃん。今日は更に早起きだね」
突然背後から声をかけられ、一瞬驚いた表情をする穂乃果だが、すぐ笑顔で返す。
「あっ、ことりちゃんおはよう。ごめんね、おこしちゃった?」
「ううん、大丈夫だよ。それにもう少ししたらみんなの事おこすでしょ?」
「あははは...うん、そうだね。今日も朝練だもんね」
「ここ凄い景色だね。日が昇る水平線が見えるなんて、やっぱり真姫ちゃんの家は凄いよね」
「ねっ、本当だよ。最高の景色だよね」
「それで...どうかしたの穂乃果ちゃん?」
「えっ...」ことりの問いに思わず言葉が詰まってしまう穂乃果。 ことりは気づいていた。
いつも通り元気ではあるが、少し様子が違う穂乃果に。
「さすがことりちゃん、何でもお見通しだね」
「それはそうだよ、ずっと一緒だもん。海未ちゃんも気づいてたよ」
物心ついた時から一緒だった2人。
ことりからすれば気づいて当然なのだろう。 穂乃果は滔々と語りだす。
「BiBiの3人見てたら凄いなと思ってさ...μ'sもやりながら、BiBiとしてあんなにクオリティの高い練習もして...ホームページとか作って、プロのA-RISEのライブへの出演が決まってて...BiBiの3人が本当に凄いなって思ったんだ。それと同時に何だか3人が遠くへ行っちゃったみたいに感じて...」
「穂乃果ちゃん...」 その言葉に、ことりは何と言っていいのか、言葉を詰まらせる。 だが、構わずに穂乃果は続ける。
「寂しい...っていうのは違うんだけど...私も3人の事は心から応援してるよ。ただ、何と言うか...どんどん前に進んでいく3人を見て、羨ましく思ったっていうのが正しいのかな...」
少しずつ陽が昇り、空も明るくなり始めていた。
穂乃果は悩みではないが、心の葛藤とでも言うのだろう、言葉を選びつつ、ことりへと話していた。
「私も学外で活動するようなユニットをやりたい...
何てあの3人を見てたら思っちゃったりして...
でも私は真姫ちゃんみたいに曲は作れないし、絵里ちゃんみたいに踊れないし、
にこちゃんみたいにアイドルに凄い詳しいわけでもないから、あの3人に比べたら私って何もないやって。アハハ...」
するとことりは穂乃果を見つめて言った。
「確かにBiBiの3人は凄いと思う。でもね...」
そこでことりは言葉を止めた。でもね...穂乃果ちゃんだって凄いよ。
いつも私と海未ちゃんをμ'sのみんなを引っ張ってくれて、ここに導いてくれたのは穂乃果ちゃんだよ...ことりは心の中でそう呟いていた。
「でもね...その後は言わなくても穂乃果ちゃんならわかるよね?」
何となくことりの言わんとした事を理解した穂乃果が頷く。
「うん...ありがとう...もし...もしもだよことりちゃん。私がことりちゃんとBiBiみたいに学外で一緒にユニットやりたいって言ったら...一緒にやってくれる...?」
その言葉は穂乃果の切実な想いだろう。 ことりは笑顔で頷く。
「もちろんだよ。穂乃果ちゃんとなら喜んでやるよ。前にもいったでしょ、私は穂乃果ちゃんの進む道について行くって」
穂乃果の手を取り、ことりは言った。
小さい頃からずっと一緒だった2人。残り僅かの高校生活、悔いのないように最後まで穂乃果と共にいたいと思うことりであった。
だって、一緒に居られる時間はもう限られているのだから... かみしめるように心の中でことりはそう思っていた。
一方の穂乃果はことりの返事が嬉しくて、感極まりそうになっている。
この2人にとってお互いは誰よりも大切な存在なのだ。
いつの日だかのことりの言葉...”穂乃果ちゃんは一番初めにできた友達”互いが互いにとって初めての友達であり、それこそ本当の姉妹のようにずっと一緒だったのだ。
太陽の日差しが2人を照らす。 ことりは穂乃果を引き寄せて抱きしめた。
「ずっと一緒だよ穂乃果ちゃん...」
「うん、ありがとう...大好きだよことりちゃん...」
1つ上の先輩たちが卒業したように、次は自分たちが卒業する。
卒業したら別々の道へ進むだろう。 残された高校生活はあと1年もない。
残された時間の中で、精一杯やるだけだ。
穂乃果の想い、そしてことりの想い... 陽の射す場所で寄り添う2人。
これから先も何一つ変わる事はないだろう。
こうして1週間に及ぶ合宿は終了した。
続く