辻村深月
スロウハイツの神様( 講談社文庫 )
辻村深月著
古いアパート スロウハイツ。
かつては旅館であった建物は、現在はアパートとして若者が住んでいた。
ここでは若きクリエイターたちが共同生活を送っていた。
人気脚本家の赤羽環が アパートのオーナー。
そして環の友人らがここをスロウハイツには共に暮らしていた。
漫画家を目指す者、映画監督を 夢見る者、 画家を目指しているが、いまいち行動力のないものなどが集まっていた。
そんな彼ら彼女らを環は厳しく叱咤することも多多あったが、それでも仲の良い友人同士で楽しい日々を送っていた。
だが、 環の親友であり環をライバル視しているエンヤが、スロウハイツを出て行ってから、少しずつ状況が変化していくのであった。
このスロウハイツには、若者に大人気で作品がアニメ化や映画化もされている、チヨダ・コーキという超売れっ子作家も住んでいた。
その昔彼の書いた作品によって影響を受けた若者が、互いに殺し合うという凄惨な事件が起こっていた。
その一件があってチヨダ・コーキはしばらくの間、執筆活動ができなくなってしまっていたが、とあることをきっかけに立ち直り、今ではその当時を凌ぐ勢いで人気を得ていた。
そんなある日、エンヤが出て行った空室に新しい入居者がやってくる。
その人物はチヨダ・コーキに大きく関わりのある人であったのだが... 少しずつ変わっていくスロウハイツの人間関係。
そしてあの事件の事や過去の事、チヨダ・コーキと赤羽環、彼らにまつわる人たち、多くの事が明かされていき、スロウハイツの居住者たちもそれぞれに大きく動き始めるのであった。
クリエイターならではと言うべきなのだろうか。
何かを創造したり、一つの事に長けている者は、強烈な個性を持った人が多い気がする。
このスロウハイツの神様の登場人物もしかり、それぞれが個性的で何か一方が優れている分、足りないものが多かったりと、クリエイター、アーティストといったジャンルで活躍する人をわかりやすく示しているような気がする。
人付き合いが下手だったり、誰かに依存しないと生きていけなかったり... だがそれらはすべてではないにしろ、過去の経験があったからとも言えなくはないのだろう。
環とチヨダ・コーキ。
あの頃の過去と自分、そして今現在の二人。
違うのは当然だけど、全ては今に繋がっているんだと思える話である。
思わず、最後のシーンでは顔が綻んでしまった。
辻村深月作品さすがです。