ロバート・チャールズ ウィルスン著 茂木 健訳
ある年の10月にそれは起こった。
仲の良い少年少女の3人が、天体観測をするため、家の外に出て星空を眺めているときだった。
突然空の星が全て消えたのである。
一瞬にして消えた星と月、空にあるのは完璧な黒、そして重苦しい虚無だった。
まるで何かによって隠されたかのような不気味な空…翌日になり、太陽は今まで通り登ってきたが、それは偽物の太陽だった。
後にロシアの宇宙船の飛行士は語った。
地球は一瞬にして暗黒に包まれたと。
そして彼らは宇宙にて1週間を過ごし、地球に強引に帰還したのだと。
しかし彼らが帰還したのは地球が暗黒に包まれたすぐ直後の事だったのである。
それが持つ意味…つまりは地球を包み込んだ暗黒の外では、時間が一億倍の速さで流れていたのである。
何者の仕業であろうか、地球は時間を封鎖されてしまったのだ。
この事件を人類は10月事件と呼び、謎の暗黒男スピンマーク、そしてこの物体を作った存在を仮定体と名付けた。
その目的は一体何なのか、何も解明されることなく刻一刻と時は過ぎてゆく。
だが地球の外では一億倍の速さで時が進む。
その結果、このままでは太陽は巨星化し、いずれ地球は太陽に飲み込まれてしまう…
そこで人類がとった策は火星のテラフォーミングだった。
その計画は火星を1億倍の速さで人類の住める環境にすると言うものである。
果たして人類の運命はどうなるのであろうか…
ヒューゴ表彰受賞のこの作品、間違いなく面白い。
まず設定が実に良いと思う。地球だけが時間が封鎖される。
しかし、太陽系の宇宙は1億倍の時間が流れている。
もうこれだけでSF好きな人は惹かれるのではないか。
その時間差を利用し、わずか数日で火星をテラフォーミングし地球化してしまう。
そして火星生まれの人類との邂逅。
そのアイディアは素晴らしいの一言である。
そしてこの作品はそれだけではない人物の模写が実に緻密であり、まるで語り手である平とその周囲の人物の人生を描いているかのようでもある。
SFと言う世界の中で、人々の心理を巧みに模写しており、実に味わいのある傑作であろう。