音乃木坂図書室 司書
6月中旬。
学園祭まであと1週間と迫った6月のある日のこと。
この日も相変わらずの雨であった。
そもそも音乃木坂の学園祭はなぜに6月の梅雨の時期なのだろうと言う疑問を多くの生徒が持っていた。
さらに学園祭が終わると2年生はすぐに修学旅行(今年より日程変更された)だし、その後にはすぐ期末テストがあり、この過密日程は何なの?と思う生徒も多かった。
とは言うものの、学園祭は楽しい行事であり、終わったらテストを乗り切れば夏休みもすぐ目の前と言うこともあり、気分的には楽しくなるものだろう。
スクールアイドル部は、この日も学園祭ライブに向けて練習に励んでいた。
新しい部室も手に入れて、以前よりも雨でも練習できる環境が整っていた。
今まで使用していた教室部室も荷物を整理し、練習できるスペースを確保し、日々の練習に取り組んでいる。
とは言え、1部屋で練習できるのは1ユニットだけなので、ローテーションで使用していた。
ただし、この先に向けての不安もある。
部室にクーラーはなく、部費で購入した家庭用の扇風機と冷風機しかないので、この時期でも相当暑い。
これが夏場となったらかなりきついだろう。
しかしこうして雨の日に練習できるようになったのは、スクールアイドル部として大きな進歩だった。
そしてこの日は大きな出来事があった。
第3回ラブライブ関東地区予選、二次予選の結果発表である。
当初の予定より1週間ずれ込んだが、今日の16時に発表されたのだ。
今より1時間ほど前のこと…
16時を前にして、PC側の部室にはいつも通り花陽がPC前に待機し、机には2・3年生と各ユニットのリーダーが座り、その周りを他の1年生が囲むようにして立っていた。
音乃木坂からは1年生3ユニットのうち、Ray-OGとAphrodite-Venusが二次予選へと進出している。
これはエントリー数が1000を超える関東予選に於いて、40チームと言う狭き門に残っただけで、大健闘と言えるだろう。
だがここはあのμ‘sを生み出した音乃木坂である。
どちらのユニットもそれに満足する事はなく、さらに上を、次の舞台を目指して活動しているのだ。
部屋には緊張感が漂っていた。
16時になった瞬間、そんな空気を打ち破るかのように、花陽がピクっと動き、言葉を発した。
「来ました!それでは発表しまんちゅ、サーターアンダーギー」
訳のわからないことを言い出した部長の花陽。
部室は変な空気に包まれる。
そしてすぐそばに座ることりがツッコミを入れる。
「花陽ちゃん、これから二次予選の結果発表するのに、沖縄の人がサーターアンダギー待ってましたみたいに言わないでください」
「失礼、噛みました」花陽が言った。
「違う、わざとだ」ことりが返す。
「てへっ、かみまみた」花陽が続ける。
「は、わざとじゃない…!?かわいい…」
「神谷いた?」
「神谷さんはアフレコ中です」「ファミマ見た?」
「学校出て10分位のところにありますよ」
ことりと花陽の謎のやりとりは続く。
このやりとりを理解できる人は…一年生に何人かいてクスクス笑っていた。
某人気アニメのパクリである。
だが、全くわかっていない海未と真姫は少しイライラして、しかめ面をしている。
「ちょっとあんたたち、早く発表しなさいよ!」真姫が言ったのに続き、海未も言う。
「2人はいい加減にしてください。みんなが発表を待っているのですよ!」
海未の口調はかなりきつめであった。
さすがにこれ以上やると、海未と真姫に怒られると思ったのであろう、花陽は普通に喋り始める。
「ごめんなさい。調子乗りました…それでは発表したいと思います。二次予選から最終予選会と進めるのは20チームとなります」
花陽はマウスをクリックし、通貨順位1位から順に発表していく。
上位チームの顔ぶれは1次予選と似たようなものだった。
だが10以降はかなりの混戦模様となっており、かなり順位を上げたユニットもあればその逆も然りであった。
そして…花陽が大きな声を上げる。
「おおお!決まりましたあぁ、すごいです!第19位、Ray-OG、音乃木坂学院!二次予選突破ですおめでとう!」
その瞬間部室は歓喜の声に包まれる。
当事者のRay-OGの3人はもちろんのこと、他の1年生も先輩の2・3年生も、大きな声を上げて喜びを表していた。
一年生のRay-OGが最終予選へと進出したのである。
これはかなり凄いことであった。
何といっても関東エリアは西激戦区であり、実力も人気もあるユニットがひしめき合っている地区なのだ。そんな地区で1年生ユニットでありながら、わずか20チームと言う枠の最終予選へと進出したのである。
残念ながら二次予選敗退となってしまったAphrodite-Venusにとっても、素晴らしい経験になったであろうし、それと同時に味わった悔しい思いは、今後に絶対つながるだろう。
2・3年生の先輩たちは、自分たちミューズの時のことを思い出していた。
あの頃誰がμ‘sと言うユニットが激戦の東京予選を、わずか4つと言う枠の最終予選に残ると想像しただろうか。
だが自分たちを信じて仲間を信じて、全力でやって、その結果μ‘sは最終予選へと進出したのである。
そして最終予選では奇跡と言えるようなことをやってのけた。
全大会優勝、そして2連覇も確実と言われていた、誰もが知るスクールアイドルの代表的存在であったA– RISEを押しのけて、東京予選を突破し、決勝大会へと進出したのであった。
その後のμ‘sの活躍はもうを語る必要もないだろう。
努力が必ず報われるとは限らない。
だけど、自分たちの好きなことをやりたいことを全力でやらなければ何も始まらない。
それを身をもって知っている2・3年生である。
今回の結果で嬉しい思いをした人、悔しい思いをした人、それぞれであるが、必ずそれは自分たちの成長につながることである。
そんな思いを抱きつつ、花陽は続ける。
「最終予選は7月○日に横浜メッセで行われます。
次はいよいよ20チームによるライブとなります。
大勢のお客さんが会場に足を運ぶでしょう。
時間はあまりないけど、Ray-OGの山には頑張ってね。私たちも全力で応援してるから」
関東地区最終予選が行われる会場は、10,000人以上収容することができる横浜メッセである。
予選の段階でこれだけ大きな会場を用意してきたと言うことがラブライブの人気、そして関東地区予選の注目がそれだけ高いと言う証拠である。
これは全大会における決勝大会レベルの会場の規模であり、それだけA– RISEを輩出したラブライブが、μ‘sを産んだスクールアイドルと言う存在が今、日本のみならず世界から注目されているのだ。
「3人とも頑張ってね。みんなで応援行くからね」
穂乃果の言葉に妹の雪穂が答える。
「ありがとうお姉ちゃん。でもちょっと日程がきついね…」
確かに雪穂の言う通り今大会はかなり厳しい日程ではあった。
しかも最終予選の日は音乃木坂のテストの直前なのである。
「どこの学校も同じじゃん。むしろそっちの方が燃えてくるし、それに私たちは後悔のないようにやるだけ。そうでしょう雪穂亜里沙!」
声をかけたのはRay-OGのリーダーを務める梨緒だった。
その言葉に亜里沙が返す。
「うんそうだよ。私たちの目標はここじゃない…もっと上だから…目指せアキバドームだよ!」
梨緒、そして亜里沙の言葉を聞いて雪穂も言う。
「そうだね! μ‘sと同じ舞台に立てるよう、全力で頑張ろうぜ2人とも!」
Ray-OGの3人は最終予選へと向けて、気合を入れ直していた。
それを見ていた先輩6人は自然と笑顔になっていて、頑張る後輩の姿が自分たちのことのように嬉しく感じていた。
Ray-OG、第3回ラブライブ関東地区最終予選進出。
続く