音乃木坂図書室 司書
どこでお昼ご飯を食べようかと、アキバの街を散策することりと花陽。
普段、学校帰りに行くのはカフェやファストフード店が多いのだが、今日は2人きりである。
アキバの街は店の入れ替わりや競争が激しいので、知らない間に新しいお店ができていると言うのはよくあることで、駅の近くにある、飲食店が多数入っているビルの前でことりが足を止めて花陽に言う。
「花陽ちゃん、ここの9階の新しいお店はどう?ランチタイムはご飯、味噌汁、明太子、かからし高菜が食べ放題だって。土曜でもランチ営業してるよ」
「な…なんですかその天国みたいなお店は…すごい、凄すぎます!ことりちゃん、ここにしよう!」
と言って花陽はビルの前にある店舗のメニューを穴が開く位の勢いで見つめている。
そして何かの呪文のように、ご飯おかわり無料とつぶやいていた。
放っておくとその看板に飛びつくのではと心配になることりであった。
花陽にとってはどんなサービスよりも、ご飯食べ放題と言うのは最高の幸せなのだ。
かくして博多料理の店舗へ入る2人。
店内に入るやおいしそうな匂いが漂い、土曜の昼時となって大盛況である。
花陽はよだれが垂れそうな位のテンションであり、そんな花陽を見て可愛いなぁと思うことりだった。
席に案内されて2人は注文をする。
「私はこの明太唐揚げ定食、もちろんご飯は大盛りでお願いします」
「私はこの定食でお願いします。えっ…?あ、私は普通で大丈夫です…」
花陽が大盛りご飯を頼んだため、店員はどうやら気を遣ってことりに聞いたのである。
ご飯大盛りですか?なんて生まれて初めて聞かれたことりであった。
しかしそんなことりをよそに花陽のテンションはさらに上がっている。
なんといっても、目の前には食べ放題の明太子と辛子高菜が置いてあるのだ。
しかも無くなってもいくらでもお替わりが可能なのである。
「ことりちゃん、すごいお店発見しちゃいましたね。ここはイッツ・ア・明太子ワールドですよ!」
まだご飯も来てないのに目の前にある明太子をパクっとほおばり、幸せそうな顔をする花陽。
これでご飯が来たらどうなってしまうのだろうか…と不安な思いを抱きながらことりは言う。「花陽ちゃんうれしそうだねぇ。高校生にランチ1000円は少し高いけど、たまにはいいかもね」
「はい、夢のようなサービスなのです!今度穂乃果ちゃんも誘ってきましょう!」
花陽にとって穂乃果は大切な友人であるのと同時に、大食い仲間でもある。
その言葉を聞いたことりは、花陽とともに暴飲暴食する穂乃果の姿が脳裏に浮かび、苦笑いをしていた。
そしてしばらくして、2人の前に注文した定食が運ばれてくるや、花陽のスイッチが入る。
最高の笑顔を見せて言う。
「きたーあー、いただきまーす!」
すごい勢いで食べ始める花陽であった。
それから20分後…
「すいませーん、ご飯おかわりください。大盛りで!」
それを聞いたことりは思わず花陽に問いかける。
「花陽ちゃん…次で何杯目…?」
「6杯目です。ゲップ…」
「すごいね花陽ちゃん…」
ゲップしてるのにおかわりするんだ…しかも大盛りで…
と言う心の声が漏れそうになることりは、花陽の食欲に脱帽するだけだった。
そしてもちろん食後はいつもの通りであった。
「うぅぅっ…く、苦しい…でもおいしかった…ゲップ…ちょっと食べ過ぎちゃったかなぁ。見てことりちゃんこのお腹!」
と言って満足げにお腹をポンと叩く花陽。
まるで妊婦のようにぽっかりと膨らんだお腹を見て、ちょっとどころではなく相当食べ過ぎだし、とてもアイドルと思えないことりは思っていた。
「すごいな花陽ちゃん…その中、何が入ってるの…?」
当然わかっているがことりを花陽に尋ねてみる。
「白米と明太子と唐揚げでふっ…?…」
「そうだよねーハハハはぁー…」
だいぶひきつった笑いをすることりだった。
そして案の定苦しくて動けないと花陽が言うため、2人は店を出て、そのまま近くのカフェへと入る。
席に着いたことりが言う。
「飲み物買ってくるから、妊婦さんは座って待っててね」
「うん、ありがとうことりちゃん。ていうか妊婦さんて…」
と言うも虚しく自分のお腹を見つめて、少しばかり食べすぎたことを反省する花陽だった。
数分後、ことりが飲み物を持って戻ってくるが…
「はいお待たせ、花陽ちゃんはアイスソイラテだよね」
「が、ありがとう、って…ことりちゃんそんなに食べるの…?」
ことりは飲み物のほかにチーズケーキ、シフォンケーキフルーツタルトにアップルパイがトレーに載っていた。
「うん、甘いものは別腹だよね。花陽ちゃんも食べる?」
「私は大丈夫です…」さすがの花陽もこれ以上は食べられないらしい。
ことりもことりで食後にスイーツを4つも食べようとするあたりはなかなかであろう。
ことりはμ‘sのメンバーの中でも1番のスイーツ好きであり、スイーツだけに限って言えばμ‘s 1の食欲である。
μ‘sのメンバーは特別の好物に傾倒することが多いのだ。
ことりはスイーツ、絵里はチョコレート花陽は白米、凛はラーメンといった具合に。
それを考えると全てにおいて、何でも食べる穂乃果はやはり別格であった。
それはさておき、ことりは少し気になったことを花陽に質問する。
「ねぇ、花陽ちゃんは家でもあんなに食べるの?」
「家だとご飯炊く量が決まってるから、あまり食べれないの。多くて一食2合位かな。だから好きなだけ食べていいとなると止まらなくなっちゃうんです…」
「そ、そっか…白米はおいしいもんね」
あまり食べれなくて2合とかかなり多い気がするけど…と言う心の声を押し殺してことりは笑顔で言った。
「そうなのです。日本に生まれて本当によかったです。地方によって多くのブランド米が存在する現在、お米によって本当に味や風味が違うので、幸せですよね。ちなみに先程のお店は宮城県産のコシヒカリでしたね!」
とても幸せそうな花陽を見て、なぜか自分も嬉しい気分になることりだった。
そして2人の楽しい会話は続いていく。
スクールアイドルや新たに始めたユニットの話題、そしてアニメトークに夢中になる2人。
趣味が合う人と互いに好きなものの話をしていると、時間というのはあっという間に過ぎてしまうものである。
それから2時間が経過し、気づけば15時を回っていた。
趣味トークを続けていた2人はスマホに気を止めることもなく、13時過ぎにメールと着信があったことに気づいていなかった。
いつの間にか外は雨も上がり晴れ空が広がっている。
メールは穂乃果からで、雨もやんだから今からみんなで練習をしないかと言う内容であった。
2人以外はみんなオーケーの返事をしていた。
「話が楽しくて全然気付かなかったね」
「そうだね、これみんなで練習してるのかなあ…ちょっと電話してくるね」
ことりは席を立ちいちど店の外へ出て電話する。
この辺のマナーの良さはことりならではだろう。
いつでも周囲に気配りができる。
これはやろうと思ってそう簡単にできることではないのだ。
電話を終え終え戻ったことりに花陽が訪ねる。
「ことりちゃんどうだった?」
「うん、私たちから返事がなかったから、結局練習はしてないって。でもそのかわり…」
「そのかわり…?」
焦らすことりに息を飲む花陽…
何を言われるのかドキドキする花陽…
「みんなで遊んでるって」
「なぁーんだ…ことりちゃんが神妙な面持ちで言うからドキドキしちゃった…」
「ふふっ、なんだか真姫ちゃんの家に集まってるらしいよ。私たちも今から参加しちゃう?」
「もちろんですっ!行こっ!ことりちゃん」
こうして2人は真姫の家へと向かった。
結局1日中一緒にいることになる2人だった。
μ‘sとして一緒に活躍し、ともにμ‘sicforever、そしてPrintempsのメンバーとして活動することになったことりと花陽。
今まで以上に深い絆を築いていく2人であった。
続く