太陽フレアで全世界が長期の停電

赤いオーロラの街で


赤いオーロラの街で

伊藤 瑞彦 (著)

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伊藤 瑞彦 (著)

北海道・知床が舞台。太陽フレアによって、全世界が長期の停電

東京のIT企業にプログラマーとして勤める高山秀幸。

彼は職場に本職のプログラマーが数名新しく雇われたことにより、自分の仕事は全て独学、我流であり、本職の人に比べたら技術力もない、この仕事はもう限界かもしれないと悩んでいた。

そこに社長から告げられたのは北海道知床の斜里町と言うところでテレワークの体験をしてこいと言うものだった。

友人の頼みとのことであるが、面白そうだからと言う理由で、仕事と言うよりは半ば休暇に近い形で北海道へと行くことになる。

斜里町を訪れた高山は美しい自然に驚き歓迎会でもてなされ、満喫していたのだがその日の夜、不思議な現象に遭遇する。

夜空を見上げると一面が赤く染まっていたのだ。

夜空を埋め尽くす、美しい赤いオーロラである。

だがこれは大変な事態であったのだ。 街はすべて停電しており、しかも復旧の目処が立たない状態であった。

通信機器も全て使用できなくなり、唯一ラジオの1部のチャンネルから、かろうじて流れてきた情報、それは日本のすべての発電所が停止し、日本中が停電し、それが世界中で起こっていたのであった。

その原因は超巨大な太陽フレアによるものだった。

超巨大なスーパーフレア(太陽国民近くで発生する大爆発)によって磁気嵐が発生し、世界中が赤いオーロラで包まれ、大電流が発生し、その結果誘導電流により変電設備は大ダメージを受け、停電が起こっていたのである。

これは世界停電と名付けられた。 そして恐ろしいことに、この停電は復旧に少なくとも3年から10年の時間がかかると言うものだったのだ。

使えないのは電気だけではない。上下水道、携帯電話、交通機関といったありとあらゆるインフラが使用できなくなり、まるで中世の世界に逆戻りしたかのようであった。

当然のごとく食料は高騰し、食料自給率の低い日本は混乱に陥る。

さらには原油の備蓄量にも限界があり、冬を迎えるにあたっての問題などが多く噴出する。

そんな世界で、高山は自分にできることを模索していく。

酪農家の手伝いをしたり、自家発電のソーラーパネルを利用できないかと、自分にできることを考え行動していく。

コンテナ船が動くようになり、いちど東京に戻るがすぐに高山は北海道へと戻る。 そして斜里町で生きていくと言う決心をする。

何もない何も使えないこの世界でどう生きていくのか、人間の持っているたくましさや、人の心情を描いた物語である。

この作品は実際に起こってもおかしくない内容であろう。 多少宇宙についての知識はあったが、スーパーフレアによる被害がここまでとは知らなかった。

もしこれが起きたとしたら恐ろしいことであるだがそうでなくともいつ自然災害によりこのような事態に陥っても不思議ではない。

と普段当然のように利用しているインフラが突然使用できなくなり当たり前のものがなくなったとき、人間は想像を超えるパニックに陥るのは目に見えている。

当たり前を当たり前と考えずに、日ごろから備えておくのはもちろんのこと、今こうして当たり前のように使えることがどれだけありがたいかを感じる。

そんな世界を描いたこの作品では人間の酷い部分の模写は一切なく人間の持つ前の部分、前向きな姿を描いている

。どう生きるかを問いかけるかのようでありまたどんな未来がやってきてもがんばって生きていこうと言う言葉で締めくくられた物語に感動を覚える。

自然の力による災害がもたらした世界を描いた見事な作品である。

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